あかなし様





愛知県南設楽郡鳳来寺村(現在の鳳来町)に、「鳳(おおとり)の久保」と呼ばれる深い谷間があった。
そこには自然の大木が幾千本と生い茂る、昼なお暗い密林があり、山に慣れている村人たちでも、そこへ 入ることを臆するほど気味悪い森であったという。

ある日、塩谷(しおのや)というところの木樵(きこり)4、5人が、この森に入った。
木を切っていると、ふと大きな欅(けやき)の古株を見つけた。
そこで、生木をいっぱいこの古株に詰め込んで火をつけ、その日はそのまま帰宅した。

翌朝再びそこを訪れると、昨日の古株はすっかり燃え尽き、きれいに灰の山になっていた。
そこで、何気なくその灰をかきまわしてみると、にわかに生臭く何とも言えない臭気が灰の中から湧き、 木樵たちを押しつつむように漂った。
ムッとする嫌な臭いに気分が悪くなったが、灰の中を見てみると、
「やや、ここに骨があるぞ! これは牙だ!」
「これはなんだ? 我々は何を焼いたのだ!?」
木樵たちは、何か恐ろしいものを焼いたらしいと悟り、歯をガチガチ鳴らして震え、その場から 一目散に家へ逃げ帰った。
その夜から木樵たちは謎の高熱を出し、寝床の中で苦しみ、まるで大蛇のようにのたうち回って 唸り声をあげた。

村人たちはその様態に驚き、何かの祟りではと、鳳来寺から偉い行者を呼んだ。
行者は彼らを見ると
「これは生虫(なまむし=蛇)だ。 それも1000年以上年を経た生虫の祟りっだぞ!!」

そこで例の灰を石棺におさめ、同時に鳳来寺から「浄障無垢大明神(じょうしょうむくだいみょうじん)」 という神号をもらって、丁重にお祀りすることにした。
これが塩谷で毎年盆の15日に松明を燃やし、鉦をたたき、「鳳の久保の元に納まりし、今じゃあかなし (=汚れがない)大明神」と唄って祀る「あかなし様」信仰の由来であるという。